
戸坂潤
幾何学と空間
getetc.jp/続き
このように考えると数と空間とは少くとも連続という概念に於ては全く区別が出来ないと云わねばならぬ(私は空間という言葉を何の用意もなく用いて来ているが、之と幾何学との関係をまだ何処にも与えていないから、之はまだ意味の不定な言葉に止っているということを忘れてはならぬ)。然るに連続とは系列の有つ一つの型(Typus)に外ならない。それ故立ち入って云うならば数の系列と点の系列とが連続という型を共有するということである。この事実に基いて数の系列と点の系列とが対応する。これが座標の意味に外ならない。それでは解析幾何学の座標と――それは点系列の体系である――数の系列の体系とは同一であるのか。否。リーマンがかの有名な就職論文(Ueber die Hypothesen, ……)に於て解析幾何学の対象を一般に「n次の多様」と考えたが、彼によればこの次元は Ver※(ダイエレシス付きA小文字)nderlichkeit に外ならないから、一次元は変数の一系列に外ならない。それ故「n次の多様」とは変数のn個の系列の総体そのものである。処がもし系列のこの総体が数そのものの要求する系列体系と同一であると仮定すれば恐らくそれは実数と虚数とのかの関係――複素数の概念――でなければならぬ。然るに複素数の概念を如何に拡張するにしても実数と虚数との間には等方性の関係は成り立たない。二点間の距離式は横にするも縦にするも変りはないが式と式とは等しくない。のみならずnは任意の自然数であるが、数系列の体系が任意の次元に拡張され得るか否かに就いては多くの疑問が残されていると思う。それ故リーマンの「n次の多様」と数系列の体系とは同一ではない。即ち解析幾何学の対象は数体系によっては尽すことの出来ない特異なものを含んでいることは否定出来ないこととなる。このことは幾何学の計量に於て発見される処の絶対的な単位の存在によって徹底的に証明されるであろう。ユークリッド幾何学と非ユークリッド幾何学とに於て三角形の内角の和は云うまでもなく同一ではない。併し同一でないためには角の計量の単位が共通でなければならない。かかる共通の単位はπであることを何人も知っている。然るにπを直径と円周との比――円周率――と定義するのであってはそのような計量関係は何れの幾何学に於ても同一であるとは云えない。事実ユークリッド幾何学の円周率と非ユークリッド幾何学の夫とは異っている。凡そπを角以外の計量関係の上に基ける以上それは決して共通とは云えなくなる。共通であるためには角そのものの上に基く必要がある。πとは平角である。然るに平角は直線の概念と共に絶対的であることを注意しなければならない。即ち角の計量に於て計量にとっては一つの偶然なものとして、云い換えれば計量はするが併し決して計量されない処の或るものとして平角が与えられるのである。勿論角そのものは計量される――数によって量られる――が計量の根拠となるものが再び角自身でなくてはならぬ。
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